JIS鋼材コンテナハウスは何?

ISO貨物コンテナにとって波板が命

ISO海上貨物コンテナは強い印象を与えますが、上図のように、荷積み事故で損傷したコンテナは段ボール箱のように凹んで変形しています。実は段ボール箱と同様、コンテナも波板(段ボール箱の板断面を見れば紙の波板が真ん中に挟まれている)から強度を得ています。波板が折れたら、コンテナの枠材(箱の辺にある部材)は何の抵抗もなく、一緒に曲げているのはこの写真から一目瞭然に伺えます。

ですから、ISO海上貨物コンテナにとって、この波板の健全性は命です。ISO貨物コンテナからコンテナハウスを作る段階で、この肝心な波板に、無計算・無根拠にドア・窓などの開口を開け、時には広いリビングを作るため、丸一面の波板を切り捨てること自体は非常に不謹慎で危ないです。

コンテナハウスが建築としての厳しさ

なぜなら、コンテナハウスは自立さえできればよいもんではありません。建築としての安全性を確保するには、各部位に負担できるべき最低荷重というのは建築基準法施行令で定められています。例えば、40フィートコンテナハウス規模の場合、この「最低荷重」はどのレベルのものかを理解してもらうために人間の体重(65キロ/人)に換算して説明します。

常時荷重(災害がない時の使用荷重)

床:130キロ/平米=54人が40Ftコンテナハウスの室内にいることに相当する。

屋根:60キロ/平米=25人が40Ftコンテナハウスの屋上に立つことに相当する。

屋上デッキ(があれば):デッキ材料の自重(通常40キロ/平米≒17人分の体重)+デッキ上に立ちうる人間の体重(床同様≒54人分の体重)=40Ftコンテナ屋上に71人が立つことに相当する

非常時荷重(災害が起こる時、下記のいずれの追加荷重を上記常時荷重に加算する)

積雪:屋根積雪厚みにより、40Ftの場合30センチ積雪ごとに25人分の体重に相当し、0.5mの積雪厚は40Ftコンテナの屋上に42人が上がったことに相当する

台風:平屋で38m/sの台風を受ける場合、長手側外壁に80人が「水平」に立つことに相当する。

地震:地域係数Z=1.0の場合、振動方向と直交する外壁に56人が「水平」に立つことに相当する。

いかがでしょうか。建築としての最低条件の厳しさは理解していただけますか。下図のように、波板がなければ、ISO貨物コンテナの骨組だけで、上記荷重が耐えられると思いますか?実は、4面外壁を外したら、ISO貨物コンテナは荷重どころか、屋根版の自重さえ持たなくなります。

ISO海上貨物40Ftコンテナの骨組
ISO海上貨物40Ftコンテナの骨組

「災害の多い日本の建築として、波板に頼らなくても厳しい荷重条件がクリアできるコンテナハウス」との概念の下で誕生したのは本物のJIS鋼材コンテナハウスです。下図は典型的なJIS鋼材コンテナハウスの骨組です。ISO貨物コンテナの骨組と対比してみてください。なぜ6本の柱が必要なのか、なぜこんなに太い梁が必要なのかは上記の荷重を分かった以上、説明するまでもないでしょう。しかも、これらの太い部材の接合もそう簡単な隅肉溶接(ISO貨物コンテナの溶接方式)ではなく、全強度剛接合の完全溶け込み溶接でなければならないです。(詳細はこちら、健全なコンテナハウスを作るには――あなたのコンテナハウスはラーメン構造それとも「拉麵」構造

JIS鋼材40Ftコンテナハウスの骨組
JIS鋼材40Ftコンテナハウスの骨組

JIS鋼材コンテナハウスは材料だけではない

しかし、最近、ISO海上貨物コンテナを形そのままで、材料だけをJIS鋼材に切り替わって、「JIS鋼材コンテナ」の名義で仕入れる業者がいます。仕入れた後、こんなISO構造の「JIS鋼材コンテナ」に開口・内装工事などを加えたら、今度は「JIS鋼材コンテナハウス」と名付けて販売していきます。所謂、材料はJISですが、構造は依然と波板に高度依存するISO構造方式のままの「JIS鋼材コンテナハウス」。JIS鋼材はJIS鋼材で、偽りはないが、「日本の建築としての厳しさ」、「ISO貨物コンテナの強度にとって波板の重要さ」、これらを知らないふりにしては、いかがなものでしょうか。

下図はISO構造の「JIS鋼材コンテナハウス」の一例で、屋上にデッキも設ける予定だそうです。さて質問です:この屋根は71人分の体重が持てるに見えますか?

材料だけはJIS鋼材で、構造はISO貨物コンテナのまま
材料だけはJIS鋼材で、構造はISO貨物コンテナのまま

コンテナハウス :JIS構造とISO構造の価格差

価格要因で、このような材料名義だけの「 JIS 鋼材コンテナハウス」に引かれる施主様は多くいると存じます。確かに、材料を調達して、ISO貨物コンテナの生産ラインにオーダーを割り込んでもらえれば、大量生産体制で格安に「 JIS 鋼材コンテナ」が作れるでしょう。鋼鉄躯体部分だけで、材料使用量も製造工程数も多い、小規模カストマイズ生産体制で製造される本物の(強い骨組バージョンの)JIS鋼材コンテナハウスより20~30万円/台の価格差が出るのも不思議ではありません。(JIS構造コンテナハウスの価格はこちら、コンテナハウス価格)10台買ったら、確かに200~300万円のコスト差も出ます。しかし、施主様よ、日本でこんな「JIS鋼材コンテナ」から「JIS鋼材コンテナハウス」まで改造する費用を加えたら、もうさほど大差はないのではないでしょうか?百歩譲って、この2~3百万のために、1千万円超えもつぎ込んで建てた建物が「ちょっと、屋上デッキに上がった人数が多すぎるのではないか?」「昨夜の積雪で屋根が凹んでくるのではないか?」といつもひやひや不安を抱きながら日々を暮らす必要はそもそもありますか?

JIS鋼材コンテナハウスとは

「JIS鋼材コンテナハウスは何?」との題名の質問の答えを提供するとともに、本文を締めくくります。「JIS鋼材コンテナハウス」は材料がJIS鋼材であることだけではありません。主要構造部がJIS鋼材であるとともに、波板がなくても、建築基準法施行令で定められた建築荷重がクリアできるコンテナハウスのことを「JIS鋼材コンテナハウス」と呼ぶのです。

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