施工事例12の1 事務所・オフィスJIS鋼材建築用コンテナハウス(概要・設計篇・竣工写真)
はじまり
今回の案件は事務所用連棟コンテナハウスです。施主様は輸出入業務を携わる商社様で、海外から貨物をどんどん運んでくれるISO海上貨物コンテナに馴染みが深いのであろう、新社宅もコンテナで実現したかったらしいです。ISO貨物コンテナは無論建築基準法をクリアできないので、JIS鋼材建築用コンテナハウスを視野に入れ、直接弊社に問い合わせ、取引された次第です。内容はちょっと多くて、今回はまず案件の概要と前期設計当たりの話をさせていただきます。
基本状況
設置場所:宮崎県
用途:事務所・オフィス
数量:40HQコンテナハウス(端部排水仕様)x4台+40HQコンテナハウス(側面排水仕様)x2台+20HQ(側面排水仕様)x1台、計7台
仕様:コンテナ躯体+LGS下地+ウレタン吹付断熱+建具(アルミ+ペアガラス)+付属品(コンテナ風カウンター、庇、連結部品など)
参考価格:1300万円程度(合計、税・運賃別、175平米室内床面積≒平米単価約7.4万円程度)
納入時期:2022年2月
全体レイアウト=「対外封閉、対内開放」
最初は、施主様から上図7つの紙ボックスの写真を送っていただき、「レイアウトはこうしたい」、「なるほど、わかりました」との意外にすがすがしい始まりでした。40フィート6台+20フィート1台を連結させ、ほどほどの規模で、中庭を囲んで、広々とした明るい大空間になります。左ブロックの40フィートコンテナx2台は食堂・ミニバー・トイレで、中間ブロックの40フィートx2台はオフィス・事務スペース、右ブロックの2台は事務スペース・秘書・社長室で、前方にある1台の20フィートが玄関・接客室になります。
各ブロックは中庭を囲んで、半包囲的なレイアウトになります。建築内周は中庭に向けて、大型引違戸を数多く設けてあり、大量の採光と換気性能を確保する同時に、室内の事務空間と室外の庭空間が自然に融合できていて、室内空間に多大な解放感を浸らせます。一方、建築外周は敷地周辺に向けた開口の数と大きさが控えられ、ある意味での封閉感でオフィスとしての機密性・安全性を備えてあります。
各コンテナは内部で完全に連通し、せせこましい窮屈感がなく、コンテナの中で働くとは思えないほどの解放感、また仕事場で重要視されるコミュニケーションのスムーズ性が保証されます。中庭に芝生が生えて、仕事疲れの時に、大きい引違戸を通して、中庭の緑を眺めるのがなかなか快い憩いのひと時になるかと想像できます。
設計者の良心
コンテナ全体に比べたら、コンテナ同士の連結部分・隙間処理はちっぽけな隅にあり、目立たない存在です。施主様たちはコンテナ間の隙間を埋める部材の有無を一言で聞くくらいで、詳細はどうなっているか、性能がどうなるのかまではほとんどの場合精査しないです。屋根排水に対しても、大した関心を持たないのが一般的です。お客様側では「細かいことはいちいち知りたくない、漏れなければそれでよい」との本音でしょうが、下図のように竣工後しばらくの間は漏れないだろうが、真ん中のコーキング材が劣化するにつれて、漏れるのは時間の問題だということは一目瞭然、このようなソリューションがまだまだ業界内にいっぱい存在し、気を付けたほうがよいかもですね。
強いて言えば、隙間処理やら排水やら、このような「ちっぽけ」な細部こそ往々して、重要な役割を担っています。「屋根が1,2年したら錆び始めるかどうか」、「地震や台風が過ぎ去ったら、コンテナジョイント部の壁や天井がひび割れ・水漏れ始めるかどうか」、このように、施主様の長期利益と深く関わっているのがこれらよく見過ごしてしまいそうな細部です。
そして設計側・製造側の立場では、これらの細部設計への工夫と粘りが最も非効率的で、いかなる巧みな工夫をしたとしても、「隠れて見えない部分」となり、お客様に評価されず、いわゆる「報われない」労力になります。逆にまずい設計でごまかしても納入後しばらくの間には、ばれないものであり、ばれても「コーキング材が悪い」「施工が悪い」などの言い訳で逃れられます。労力と時間を掛けるだけならまだ良いとして、時にはこのような「細かい部分」に縛られて、お客様に説明して「こうしたらこの部分がまずい」「ああしたらそこが問題になる」といちいち指摘したら、お客様のご機嫌を悪くさせてしまって「なんだよ、結局何もできないじゃん!」と取引自体が危うくなる可能性だってあります。
よって、設計業界でよくあるパターンとして、商談成立まで最短距離でたどり着く「賢い」方法は実に簡単で、お客様のご要望をまん丸く鵜呑みして図面に描いて見せる、これだけ。お客様が心配していない余計な「心配」をせず、ほしいものを描いて見せりゃよい、ということになってしまいます。
弊社のポリシー
しかし、本当にこれで良いでしょうか?お客様のご要望を極力尊重するのは当たり前ですが、お客様はプロではなく、見極めていないリスク、考慮の行き届いていない問題を指し示す、これらリスク・問題をできるだけ回避する方法を探り出す、これらの知的作業を担うことこそ、はじめて設計者の仕事と言えるのではないでしょうか。こうやって初めて、長持ちのコンテナハウス、住み心地のよいコンテナハウス作品がよの中に送り出せるのではないでしょうか。単純に「お客様の考えを図面にして、ものを売る」なら、あくまで製図員兼営業マンの仕事であり、コンテナハウス設計者の仕事とは言えません。このような目立たない細部の設計領域に入れば入るほど、設計者の良心が問われてくると感じます。
こんな時、施主様・利用者の立場に立ち、「もしこのコンテナハウスが商品ではなく、自分の家になるのならどうする?」と自問自答的に考えることが大切だと考えます。自宅視点から見れば、「ああしたら絶対嫌だ!」「ここだけは妥協したくない」「こうしたらもっとよいのでは?」のように、自分を代入しながら、粘りながら潜在リスクを探り解決策を立てて、やっとコンテナハウスを長年携わった自分でも納得できる方案が見えてきます。どうしても問題があって解決できないとき、その分のリスクを十分お客様に説明し、代替案をともに決めていきます。これがコンテナハウス設計者としての原点だと確信し、ずっとこのポリシーを貫いてまいりました。
今回のコンテナハウス設計難題:構造連結と屋根防水
上記述べたように、今回のレイアウトは不整形レイアウトのお陰で空間設計の自由度が上がり、メリットが沢山あると同時に、コインの裏表のように、不整形によるコンテナの不規則的な配置のせいで、お互いに屋根排水経路を干渉してしまう問題を引き起こしてしまいます。各コンテナの屋根がちゃんと水溜まりなく排水できる勾配設計が建築全体の使用品質さらに耐久性・寿命に関わる重要な設計課題になります。(詳細はこちら:コンテナハウスの屋根連結と雨仕舞までお読みください。)
また、同じく疎かにしてはならないのは各コンテナ間の連結です。壁量と位置の相違で、ただでさえ剛性不均等である各コンテナは、不整形レイアウトのせいで、配置方向がさらにばらばらとなり、建築全体を構成する各部の剛性の不均等性がさらに激化されます。この場合、もしコンテナ同士を強力的に繋いで一体化させておかないと台風や地震の時に、コンテナ同士がずれてしまったり、段差が付いてしまったりして、内装材のひび割れや雨漏れの原因となりかねません。(詳細はこちら:コンテナハウス建築におけるコンテナ間連結はなぜ重要かまでお読みください。)
さらに、上記二つの問題が絡み合って、屋根連結箇所の防水を優先したら、構造連結が落ちるとか、構造連結を優先したら、雨漏れのリスクが上がるとかのように、両者がまるで激烈な闘争をしているような状況です。設計者としてこの闘争の中で双方と斡旋し、両方とも納得のできる和解案を持ち出そうとし、苦戦しました。
「従来の柱頭に連結板を構える連結方法では、不規則突出部が沢山出て、防水カバーの隙間やボルト孔がコーキング材頼りとなり、心細い」「他社のように長ボルトで隣接する梁・柱を串刺しして連結では、防水は便利だが、強度は全然足りず、これもだめ」、このように否定しながら新案を探り続けて、やっと半月くらい粘って、納得できる案が出来上がりました。
弊社は高力ボルトx増強仕口部(梁・柱の交差部、コンテナ構造の一番強い部分をさらに増強したもの)での摩擦接合連結を実現し、本物の「強いコンテナ」=「強いコンテナ建築」にしてあります。(当然ながら、各方向のジョイント部には特別性があり、全部上図のような方式では対応できなく、あくまで参考用の一例です)
納入後半年くらい過ぎて、宮崎県にある今度の納入地が史上最強と言われる台風14号に直撃されました。幸いなことに、状況確認したところ、「大丈夫でした」と施主様からOKマーク付きの返事を頂いてほっとした同時に、「今度はコンテナでアパートを建てたい」との新計画を持ち出していただき、本当にあの時の粘りがいがあったなと思い、嬉しい至りでした。
次回紹介
次回は施工事例12の2で、実際のコンテナハウス工場内での生産風景、現場設置などをご紹介いたします。お楽しみください。(つづく)