施工事例15 多雪地域商用大屋根付きコンテナハウス
今回の案件は新潟県スキー場リゾート内に位置し、用途はチケット売り場ブースとトイレブースとなります。設置場所でご判断できる通り、今回設計のポイントは多雪地域の多大な積雪荷重(設計積雪量2メートル)と関係深いです。レイアウトは上図の通りシンプルで、離れた2台20HCコンテナの上に大屋根が跨る形式になります。多雪地域での大屋根付きなので、積雪荷重は結構大きく、建築用コンテナハウスはどうやってそれを克服したかをご紹介いたします。
案件概要:
案件特徴:多雪地域、2m積雪量、大屋根付き
納品範囲:20HC(背高型)コンテナハウスx2台(LGS軽天下地、ウレタン断熱施工付き)+大屋根鉄骨(タイトフレームや大屋根は現地支給装着)
納品時期:2023年11月
納入場所:新潟県
参考価格範囲:400万円以内(海上運賃込み、基礎・据付・電気・配管・内装ボード張りなどの後続費用含まず)
1.コンテナハウス設計の経緯
1)立体駐車場となる屋根
客先のイメージ図を一見したところ簡単に見えますが、しかし多雪地域の中の多雪地域(スキー場)で、積雪荷重は侮ってはならぬ、コンテナ屋根に載せる総荷重(固定・積載・積雪荷重を合計)を計算してみると、なんと驚くべき370KNで、即ち37トン≒軽自動車(平均900キロ/台)40台余りを屋根の上に何層も重ねてビッシリ載せたことに等しいです。(立派な立体駐車場じゃん?!)
それだけではなく、地震動する時に、これらの荷重(ある程度低減はできるが)が屋根と一緒に前後左右に振れて、下の可哀そうなコンテナ2台を苦しめるのです。そのほか、コンテナ上部を覆う大屋根の梁も8.4mの全長で、そのままではコンテナの中には当然収められず、分断しないといけないのも検討ポイントです。
2)腰ベルトを着けたコンテナ
上記条件揃えて、構造設計が始まり、色々・諸々検討した挙句、3本大屋根大梁を支える3列柱構造方案を採用した。柱は3列なので、20フィートコンテナにもかかわらず、通常40フィートならではの6本柱構造を採用。単純に長梁中央に2本柱を足すだけではなく、柱を安定させる上下短梁も追加、強剛な腰ベルトのような中枠を丸ごと1個入れたことになります。コストは当然通常よりアップしたが、それにしても安全性を最優先とした前提の下で、経済性を精一杯兼備させようとした最善策でした。
中古貨物コンテナの真ん中にもし何事もないように今回大梁と荷重を載せたら、コンテナの上長梁が豪雪時の積雪大荷重で大きく撓んでいきます。もし撓む梁を小柱(上下梁間に簡単に溶接した支えもの)で簡単に支えたら、積雪時期に発生したあいにくな大地震に左右に揺らされ、小柱が傾いて両側のコンテナの中央部が同時に片方に歪んで半倒壊の恐れさえもあります。屋根荷重の半分(車20台程度)を負担する中梁に対して、建築用コンテナでさえもさすがに柱4本だけでは心細く、6本まで増やさないといけないわけです。
3)単純に見える、単純ではない屋根大梁
長すぎる大屋根大梁は、現地据付誤差吸収と運搬・装着簡易さを考慮し、3分割にしたのです。分割点は応力計算上曲げモーメント負担が0になる箇所にしたのです。(もっとも、継手強度を考えたら、0ではなくても全然問題ないですが、一応念のために最小応力箇所にしたのです。)大梁とコンテナとの接合は、現場溶接に頼らず、ボルト締め式にしたのです。人命に関わるほどの重大さなので、構造計算書も付属してあります。
長尺折板屋根も水勾配が必要なので、大梁を水平のまま(主要構造を簡明化するため)にしているにもかかわらず、小梁の連結ガセットプレートが一枚ずつ形が変わり、相隣する小梁同士に段差をつけることによって、大梁方向に沿った水勾配が実現したのです。言うのは安いが、実際設計する時、折板屋根と大梁との干渉逃げ、変型ガセットプレートの強度などは入念に工夫したのです。
こうして、最終的に確定した設計案は下図の通りになったわけです。
2.工場内生産風景
まずは、いつも通りの部材加工と主要構造部溶接です。鉄骨構造はこういう見えない部分何より大事で、開先、裏当て金、完全溶け込み溶接、一個も事欠かせないです。
この時期は工場がいよいよ忙しい時期に突入し、夜も8時まで残業。組み立てられたコンテナをいち早く仮組段階に入り、翌日午前が仮組検査となります。
設計した筆者がこのコンテナの隅から隅まで知り尽くしているのですが、やはり工場に入って仮組された実物が目に入る途端、いつものようにはっと驚き「おお、いい出来だね!」とつぶやいて驚嘆するのです。つい、手元のパース画像と照らし合わせて同角度を探り出し、写真を撮り始めます。
当然、仮組検査は写真撮り程度のような楽な仕事ではなく、開口やら全体外形やら根太やら緻密な各寸法測量・データ記録がメインです。検査箇所は全部一発でクリア、次の段取りに入ることを許可したのです。
次は、塗装工程です。全身ショットブラストによる除錆素地処理(塗装の付着力向上のため、鋼鉄表面を粗目にする)とスプレーガンで付着しにくい隅部の事前手塗り下準備。準備完了後、塗装室に入り、全身3遍(防錆下塗り、中塗、上塗り(中は下塗りだけ))のスプレー塗装を経て、以下のピカピカコンテナになります。
合板床を敷き、LGS下地を組み、養生をして、ウレタン断熱吹付工事に入ります。ウレタン断熱の厚み検査は吹付工事同時に行います。今回は50ミリの指定厚で、ぴったりでした。
床下は根太の間にウレタン発泡を吹き付けすることになります。その後、防湿・防虫対策として、コンテナ専用アスファルト系防腐塗装をウレタン材の表面に施し、湿気やシロアリを遮断すると同時に酸素や紫外線も遮断するので、大気に暴露したウレタン断熱材の風化粉化作用を阻止するのです。
そして、ついに生産完了となります。一刻も待たず、着々と、梱包工程に入ります。
大屋根鉄骨部材をコンテナ内部で固定します。
最後に、建築用コンテナの外部をビニール膜で全身縦横巻き、出荷待ちとなります。
終わりに
以上をもって、多雪地域商用大屋根付きコンテナハウスをご紹介いたしました。竣工写真はまだですが、後日追加ということで、ご期待ください。