施工事例16の1　多雪地域寄宿舎・ホテル用コンテナハウス（落札への設計、竣工写真）

今回ご紹介する案件はまたとなる作業員寄宿舎・ホテルで、東北地方・秋田県の海辺にある風力発電工事現場の作業員用のものになります。20HCコンテナハウス21台で、20室の客室と1棟の管理員室の構成になります。内容が多いので、２つの記事に分けて、ご紹介いたします。本記事は落札に導いた設計過程と竣工写真になります。

案件概要

規格：20フィートHC（ハイキューブ）建築用コンテナハウス
数量：21台
用途：作業員寄宿舎・ホテル
納入場所：秋田県
納入時期：2024年１月
施工範囲：コンテナ躯体＋軽天下地LGS＋ウレタン吹付断熱
納入期間：60日間
案件特徴：多雪地域（１m垂直積雪量）、取り外し式マリンドア塀、ユニットバス無段差進入

案件背景

全数21台、A・B・C・Dの４タイプに分け、１台Dタイプが管理員事務所用以外、ほかの２０台A（4台）・B（5台）・C（11台）タイプは全部寄宿舎・ホテル用となり、敷地形状、内部道路、採光条件に合わせて窓・ドア・エアコンなどの位置が違うだけです。

また、一点特別なのは今回の案件は入札案件となっております。入札者となる弊社の客先が地元の工事会社で、現場の基礎・据付・内装・電気工事を統括し、弊社がコンテナ躯体部分（LGS軽天下地・断熱工事も含み）を納入する役割になります。入札案件なので、いうまでもなくコスト的には敏感で、落札できるために、弊社は高コスパ性を狙い、使用条件・強度要求をきちんと把握したうえで無駄を省き、設計・見積段階から最善のプランを提供し、最強の競争力を備える覚悟で対応いたしました。そして、3か月くらいの競い合いを経て、客先がお見事に落札できた次第です。

落札への設計物語

１．コンテナ屋根鋼板を「紙」と見なさなかった

設置場所は海辺とは言え、日本海側の多雪地域なので、最低でも1メートル厚の垂直積雪量を耐えなければなりません。しかも、多雪地域なので、融解・凍結の繰り返しによる積雪密度増加に備えて、積雪荷重は通常地域の1平米付き20Ｎ/センチより、30Ｎまでの増加となります。以前、本サイトで記事したように、コンテナの標準屋根自身が1メートルの積雪量が耐えられる内容がありましたが、それは一般地域の20N・㎝/㎡基準に基づいた計算で、しかも結果がギリギリ破損寸前の異常状態なので、当然今回は通常のコンテナ屋根そのままではNGです。屋根の増強が必須です。

屋根を増強するなら、屋根の下に母屋（下地材）を設けることが一般的です。母屋を設ける考え方も２つがあります。一つは屋根板自身の強度を完全に無視し母屋だけで屋根荷重を受けようとする方法と、もう一つは屋根板自身の強度を正確に評価した上、安全余裕を持たせながら屋根と母屋がともに働かせ、屋根荷重を担わせる方法です。

一つ目は、強度の把握しにくい屋根板を完全に強度無視して、計算しやすい母屋だけで計算しているので、安全では安全です。しかし、あまりにも保守的過ぎて、母屋を大量に入れることで製造コストが高騰し、商品としての競争力が欠けてしまいます。特に、今回のような大量応用する場合、自家用1台なら何とか我慢できるコストでも、台数が多くなるにつれて、歯痒く、心が痛く、目に余る大金になってきます。特に、入札案件なので、無造作に保守方法を採用するのが簡単ですが、そのせいで落札できなければ、元も子もなく、すべてが水の泡で企業努力とも到底言えません。

弊社は、２つ目の方向に沿って、検討いたしました。屋根強度解析に基づいて、通常地域での20N・㎝/㎡、1メートル積雪条件を、無支持でギリギリ耐えられる点に着眼し、母屋支持付きで渡りスパンを半減させた場合、現地の使用条件を十分満足できる屋根強度が得られる結論に至りました。そして、この結果に踏まえて所要母屋を設計してまいりました。かなりコストのかかった増強リブ付きコンテナ屋根鋼板を「紙」に見なさず、きちんと評価したことで、増強母屋の部分だけで一台につき8万円ほどのコスト削減ができました。全プロジェクト21台で、170万弱の差がここから出ます。まあ、結果として最終的に落札できたので、この170万がどれほど力になれたかは到底知りませんが、170万ほどの利益を顧客側に譲ったのは確実と言えるでしょう。

2．入札競争相手のプランも見積した

入札案件だからこそ、出会える面白いこともあります。

客先にプランと見積を提出して１週間ほど経て、同一案件にめぐる別のお問い合わせメールも殺到しました。同一案件と確信できたのは、レイアウトも、開口位置も、台数もほぼ全部同じだったからです。入札競争の厳しさを驚嘆し、既に手を組んだ客先が大丈夫かなとちょっと心配していたが、問い合わせ内容をよく見たらひとまず安心しました。この問合せは詳細図面付きで、いわゆる設計が既に固まり、「図面通りに製造した場合のコストだけを見積もってこい」との内容です。安心できたのは、詳細図面に描かれた設計内容です。コスパ性の劣るアングル柱を採用し（アングル柱コンテナハウスについてもっと知りたい方は、こちら、なぜうちはアングル柱を使わないのか？までご覧ください）、平屋にしては強度余裕すぎる柱・梁のわりに、多雪地域に備えるための屋根増強は全然なしていない。。。弊社は通常通り、コスト積算をし見積提出しました。そして希望を一切持ったなかった理由は、弊社が先に設計したプランより30%以上も高価だったからです。しかも屋根増強抜きで。

３．無段差進入のユニットバスと根太切断

ユニットバスの下部には排水管などがあり、通常通りコンテナハウスの床上に設置する場合、浴室床レベルが部屋より一段と高くならざる得ないです。今度のコンテナハウスは、一般のビジネスホテルと差別しないために、ユニットバス該当部のコンテナ床を切り抜き、ユニットバスをそのまま基礎に据え付けることで、浴室の無段差進入を実現しました。もちろん、床を支持する根太をそのまま切るわけにはいかないので、最初から開口あり前提で根太構造を設計したのです。

４．マリンドア風の門塀にめぐるジレンマ

コンテナハウスを利用する時、コンテナへの連想をなるべく抑えたい方がいる一方、なるべく「これがコンテナだ！」と故意に主張したい方もいます。今回の案件は後者に属し、施主側はコンテナが大好きで、コンテナ要素として、波鋼板外壁板だけでは物足りず、象徴的な貨物コンテナ用のマリンドア（Marine-door）も玄関傍の門塀として利用したいとのご要望だそうです。90°開いたマリンドアはまるで倉庫前で貨物を下ろしている最中の貨物コンテナのごとく、遊び心のある意匠性を示すためだけでなく、ホテル利用者にある程度のプライバシーを提供する同時に防風塀としても働き、玄関上にある庇とともに、悪天候下の入室に手助けくれます。

一見したところ、一石三鳥で、なかなかロマンなアディアですが、輸送・製造の現実問題を考えるときに、結構悩みました。マリンドア自身の厚みは5センチ、付属部品（ロック棒などの銀色部品）を含めたら10センチ近くになります。マリンドアは当然閉めた状態で運ばれるので、この「厚いドア」の裏にさらに外壁を作ったら、内壁下地なども含めて、マリンドア側の総壁厚が22センチにも達します。ただでさえ室内空間が物足りないコンテナハウスとしては、これほど大量の室内空間侵食はとても痛いです。また、外壁にこの輸送時だけに機能する「マリンドア収納凹み部」に掛かる余計な製造コストも目に余ります。

それで、弊社が発想的なアディアとして、「取り外し式マリンドア塀」が誕生しました。取り外し可能とする特別ヒンジを採用することで、マリンドア板を輸送時にコンテナ内部収納し、現地到着後簡単に装着して直ちに使えることが実現できました。施主側のご希望を全部満足する同時に、室内空間への侵食やマリンドア収納用凹み部製作に掛かる余計なコストなどの犠牲は一切負いません。

竣工写真

次回は、工場内生産風景で、お楽しみに！

以上で、施工事例16の1、多雪地域寄宿舎・ホテル用コンテナハウス（落札への設計、竣工写真）部分の内容でした。次回は、工場内生産過程の写真をいっぱい披露いたします。ぜひ、次回まで、お楽しみください。